焼け木杭に火はつくか?

テーブル席から窓越しに臨めることができる、隣接している団地内で一番大きな公園には、様々なバラが咲く小さな庭園がある。
五月の連休明けになると春咲きのバラの写真を撮りに訪れる者や、十月の半ば過ぎに見頃となる秋咲きのバラの写真を撮りにくる者も多かった。
源次郎も足繁く公園に通っていた愛好家の一人だった。
写真を撮ったついでにというように、聡の店に立ち寄り珈琲を飲んで行く者も多いらしい。
源次郎が元気なときに聡の店が始まっていたら、毎日のようにカメラ片手に通い詰めていたに違いなかった。
眺めのいいテーブル席は、そんな客たちにも人気の席だった。

『Waoto』という店の名前の意味を、英吾を初めとする友人たちは尋ねたそうだが、聡は意味ありげに笑うだけで、英吾たちには何も答えなかったらしい。

「先生なら、答えを知ってるはずだよ。考えてみ?」

良太郎が初めて店を訪ねた日。
英吾たちが尋ねたように、良太郎も店の名の意味を問うてみたが、聡はそう言って笑うだけだった。

『知ってる? 俺が?』
『おぅ。知ってるはず』

にこりと笑いながらの聡の謎めいたその言葉に、良太郎は家に戻ってからもあれこれと考えてみたが、未だその答えを見つけられなかった。