聡も英吾と同じく、高校を卒業した後も地元を離れることはなかった。
しかし、英吾とは違い、高校卒業後は進学するわけでもなく就職するわけでもなく、高校時代から始めたカフェと総菜屋のアルバイトを中心に、卒業後もいくつかのアルバイトを掛け持ちするような生活をしていた。
ときには、花屋で配達のアルバイトなどもしていたこともあるらしい。
業種を考えると、聡が選ぶアルバイトは、青年が選ぶには珍しいようなものが多かったかもしれない。
アルバイト三昧というその生活の影響もあってか、聡が高校生になったころからは、聡と良太郎の接点は一気に少なくなったが、道代や源次郎とはよく会っていたらしい。
道代は料理好きで、三島家の食卓には良太郎が幼少の頃から何品もの惣菜が並ぶのが常だったが、聡がアルバイトをするようになったころ、それまでは見ることがなかったような洒落た惣菜が並ぶようなことがあった。
それらはほとんどの場合、聡が作ってお裾分けにと持ってきたものだった。
源次郎のところにも、そのお裾分けを届けることもあったらしい。
聡にはこういう一面があるのかと驚きつつも感心しながら、美味い美味いと箸を伸ばしていたことを、良太郎は覚えている。