無口な聡と饒舌な良太郎は、傍目には『のんびり屋』と『しっかり者』みたいなコンビに見える。
確かに、普段の二人を見ている限りでは、ぼんやりしている聡の世話を、良太郎があれこれと焼いていることが多かった。
けれど、ここぞと言うときにはそれが逆転する。
子どものころから、口なら回りすぎるくらい回るくせに、持ち前の臆病さから、いざというときになると立ちすくんでしまうことが多い良太郎の背中を、頃合を見計らったように、静かにそっと押してくれたのは、聡だった。
ときには、一緒に行こうと力強く手を引いてくれた。
早過ぎず。
遅過ぎず。
そのタイミングでなければ、良太郎は決して、その一歩を踏み出せないであろう。
そう思われる絶妙なタイミングで、聡は間違いなく、良太郎の背中を押したり、手を引いてくれたりした。
誰にも言ったことはないが、良太郎が就職して会社員として生活していくか、一介の小説家として生活していくか、どうするべきかを悩み続けていたとき、踏み出せなかったその一歩を踏み出させてくれたのも、聡だった。
良太郎がいつまでも聡を兄のように慕っているのは、そんな積み重ねがあったからかもしれない。