焼け木杭に火はつくか?

小説家になりたいなどど思ったことは、子どもころから一度もなかったが、同級生たちに比べると、自分の読書量は多いほうだろうと良太郎は思う。

それは、源次郎の影響だった。

源次郎の家を訪ねて、縁側にその姿を見つけると、源次郎の姿を真似て、読めるはずもない難しい本を開いては、良太郎も本を眺めていた。
そんな孫の姿に、源次郎はいつの間にか良太郎が読めるような児童書を買い揃え、縁側の棚に並べくようになった。

天気のいい日は、英吾たちと汗だくなって駆けずり回り外で遊び呆けたが、雨の日に大好きな祖父の家で本を読みながら過ごした。
そうやって過ごす時間も良太郎は好きだった。そんな子ども時代を、良太郎は過ごしていた。


-良ちゃん。本の虫だったもんね。昔っから。


取引先の書店で良太郎の本を見つけた英吾が、仕事中だということも忘れて興奮しながら電話してきたとき、感心したような声でそんなことを言った。
虫と言われるほど読んでねえよと、良太郎はそれを一笑したが、子どものころの読書が、今の良太郎を作り上げたのは間違いないと、良太郎も思う。