「あら。陥れるなんて失礼ね」
「まったくだわ。息子を陥れる母親だなんて、失礼な子ね」

じろりと良太郎を睨みつける夏海と道代に、良太郎は首を竦める。
この２人に結託されたら、良太郎はもう成す術もなく、全面降参するしかなかった。

自分を生んでくれた母親と、自分を生まれたときから知っている女性。

そんな女性たちを敵に回して勝ち戦を出来る自信など、良太郎にはなかった。
無駄な抵抗は諦めて、降参ですと良太郎は頭を下げた。

それに、道代を始めとする夏海贔屓のこの辺りの主婦軍団も、良太郎には怖い存在だった。
良太郎が夏海の機嫌を損ねるようなことをしたなどどいうそんなはた迷惑な噂が、万が一にも彼女たちの耳に入ろうものなら、道で会うたびに呼び止められて、げんなりするほど説教小言の集中砲火を浴びせられるのは目に見えていた。

「まあ、いいわ。それでね、真面目に聞くけど」

そう言うと笑っている顔はそのままに、それまでの軽口とは違う真剣味のある声で夏海は良太郎に問いかけた。