「英吾くんがこんなに頼んでるだから、あんた、頼まれてやりなさいよ」

二人のやり取りを聞いていた母親までもが、あっさりと英吾の味方に付いて、良太郎に白旗をあげさせるための援護射撃を始めだした。

「大体、あんたの本が出るたびに、夏海ちゃんのとこで、毎回毎回どーっんて取り上げて宣伝してくれてんのよ。それに、あんた、夏海ちゃんには子どものころから、散々、お世話になってるでしょ。そろそろ恩返しくらいしなさい」

ぴしゃりと言う道代に、良太郎は面白くなさそうに、口を尖らせた。


そんなに世話になって覚えはないんだけどなあ。
まあ、今でも頭は上がらないけどさ。


そう小声でぼやきながら、母親に抓られた頬を良太郎は摩っていたが、道代の口は止まらなかった。

「記念の年なんでしょ。十周年? めでたいことなんだから、ぶつくさ言わないで、英吾くんと一緒に盛り上げてやんなさいって」

良太郎が引き受けると言うまで延々と説教モードで喋り続けそうな様子の母親に、良太郎はため息を吐いて降参した。