「頼みます、お願い。良ちゃんセンセー」

お願い、お願い、お願いと、ひたすら拝み倒した。

「だぁからぁ。センセーはやめろって」
「頼むよぉ 良ちゃん」

今度は泣き落とそうというように、良太郎の袖を引き、助けてよを繰り返す。

「お前なあ。ここでその話するか?」
「だって、昼間じゃ、良ちゃん仕事中じゃん」
「いやいやいや。あのな、仕事の話は仕事中にするもんだし」
「ええーっ ジャマしちゃ悪いと思って、気ぃ使ったのにー」
「使い方が違うっつーの」
「ダメ? ダメ? 頼めない? ダメ?」
「あう、もうっ エッセイじゃダメなのか?」
「ダメ。小説」
「だってよぉ、そんなに頁だって割けないだろ?」
「でも、小説。1年間。頼まれて?」
「頼まれてって、お前なあ」

英吾に心底嫌そうな顔をしてみせる良太郎の頬を、道代はむぎゅーっと摘み捻る。

「痛てぇよですよ。母上」

頬をさすりながら講義する息子など、道代は気にしなかった。