英吾は高校卒業後は、地元のコンピューター系の専門学校に進学し、卒業後は地元の小さな出版社で働いていた。
従業員数、わずか十名という会社だったが、地元を取材対象とした地方情報誌を作り続けていた。
毎回、テーマを決めての特集記事を始め、県内各地の飲食店を中心とした各種サービス業の情報を掲載してきた結果か、地方の情報誌としてはそれなりの発行部数を誇る雑誌となった。

出版社の社長の名前は、小原夏海(こはらなつみ)。
英吾と良太郎にとっては、今は地元を離れ大阪で仕事をしている幼馴染み、小原秋穂(こはらあきほ)の姉ということもあり、子どものころから良く知っている女性だった。

夏海は才色兼備の誉れも高い、ご近所の有名人だった。
女性にしては背が高く、子どものころからバレーボールをしていたらしい。
高校生のときにはインターハイにバレーボールの選手として出場したこともあった。
年が六歳も離れていたこともあって、小学生だった良太郎たちは、夏海に何かしらの面倒をかけたり、世話になったりすることも多かった。