「センセー、あのさぁ」
「だぁからぁ、センセーはやめろって」

丑三つ時もそろそろ過ぎようかという頃。
良太郎の肩をぼんぼんと叩きながら、酔った口調でセンセー、センセーと繰り返す英吾の額を、良太郎はぴしゃりと打ち据えた。
いてえじゃんっと言いながらも、英吾はへらりと笑い、言葉を続けた。

「ウチの会社さ、今年で十周年なんだよ」

道代が出してきた日本酒を水のように飲み干していく英吾に釣られて、良太郎の酒もどんどん進んだ。
英吾の言葉を聞いた良太郎は、もう、そんなになるんだと指折り数えた。

「夏海さん、頑張ったな」
「ホントねえ」

しみじみした口調でそう言い合う良太郎親子に、英吾は抗議の声を挙げて二人に絡んだ。

「オ、レ、も、がんばったっのっ 社長だけじゃないってばっ」
「判った。判った。英吾もがんばった。よしよし、偉いぞぉ」

拗ねたような顔で頬を膨らませている英吾を宥めるように、良太郎は英吾の頭をポンポンと叩いた。