そんな良太郎に「良太郎は知ってた顔だな」と聡は笑いながら止めを刺し、横目で睨む英吾の視線に旗色が悪くなってきた気配を感じ取った良太郎は、それじゃとばかりに提案してみた。

「とりあえず、パン教室で聞いた話はデタラメだって判れば、どうにかならね?」
「ならない。そこが問題じゃないもん。パン教室がきっかけで長谷さんと夏海さんが別れたって事実は変わんないでしょ。意味ない」

無碍なくばっさりと切り捨てられて、良太郎はそうかよと肩を落とした。

「まあ、いくら英吾がデタラメって言ったって、秋穂ちゃん信じねえだろーしな」

信じてくれるくらいなら、とっくに連れ帰ってるべ。
続く聡の言葉の説得力に、良太郎は今の提案は取り下げますと白旗を揚げる。

「じゃあ。まずは夏海さんが、ひとまず、実家に戻るとか」

良太郎から出た、単なる思いつきとしか思えないそんな第二の案に、夏海はバカ言わないでよと、速攻で言い返し盛大に顔をしかめた。

「そんな簡単に言うんじゃないわよ。ローン組んで買ったのよ、今のマンション」

苦節ン年、やっと一国一城の主になれたのに。
焼酎の代わりに聡が淹れた珈琲を飲み始めた夏海は、そんな案は却下よと良太郎を断じた。