夏海の言葉に慌てふためく英吾に、夏海はバカと言い返した。

「なんで首絞めるのよっ 抱きしめてくるのよっ バカッ」
「夏海さんの怪力じゃなくても、首絞められた大抵ヤバイだろ」

左右同時の反論に、英吾はまた「オレは聖徳さんじゃないのーっ」と喚く。
仁王立ちの夏海の手を掴んだままの聡が、一人静かな声で夏海に話しかけた。

「秋穂ちゃんが、現実と向き合うことから逃げるために飛び出したここで、秋穂ちゃんは夏海さんと向き合わなきゃだめなんだって。秋穂ちゃんが、夏海さんに会うために帰ってこなきゃダメなんだって。それに今、夏海さんが大阪に行ったって、逃げるぞ、秋穂ちゃん。判るだろ、夏海さんなら」

生真面目さと頑固さと思い込みの激しさはそっくりなんだから。あんたら。
笑いながら続けられたその言葉に、夏海の瞳は一瞬潤んで揺らめき、大きく息を吸い込んで、込み上げてきたものを飲み込んだ。
それを誤魔化すように、英吾に向かい叫ぶ。

「英吾っ 業務命令っ いますぐ連れ戻してきなさいっ」

社長ーっ むちゃぶりすぎっ
仁王立ち立ちで英吾を見下ろし睨みつける夏海に、英吾はそう言って、また頭を抱え喚いた。