「夏海さん、男前な人だからなあ」
「さっきから、ホントにうるさい子ね。なんか、つまみ作りなさいよ」

邪魔しないでちょうだいと言う夏海に、聡は肩を竦めて「ピザでも焼くかなあ」と言いながら、冷蔵庫を漁りだした。

「会社辞めて、パン屋になるのに賛成できなくて、別れたんじゃないの?」
「違うわ。長谷が真剣に考えて出した答えなら、間違いなく応援したわ。ただ、そんな話しをする前にケンカして別れちゃったのよ」
「もう。昔っから怒りん坊なんだから、社長は」

やれやれとため息を吐き英吾を「うるさい」と夏海は睨みつけた。

「それがきっかけで、長谷は迷いがなくなって踏ん切りがついたみたい。パン屋になるっていう気持ちにね。仕事を辞めて、どこかのパン屋で働き始めたらしいって、随分経ってから、彼の同僚だった人に聞いて知ったわ」
「なんだよー。パン屋になるから捨てられたんじゃないのかよー」

全然違うじゃんと英吾は喚き、グラスに残っていたビールを一気に飲み干した。