「ホントのことなんて、何一つ知らない癖に、赤の他人が好き勝手なことを」

そう言って、またグラスに焼酎を注ぐとそれを一気の飲み干し、夏海は言葉の先を続けた。
そんな夏海をぽかんとした顔で見つめる、良太郎と英吾と聡の呆れたような視線など、欠片ほども気にも止めずに喋り出した。

「逆よ。長谷は迷っていたの。パン屋をやりたいって思いもあったけれど、もう二十代も半ば過ぎていて、今までの生活捨てる覚悟で畑違いの仕事に転職するんですもの。簡単に決断なんてできなかったのよ」

さすがにそれそれ酒は止めようと、聡は焼酎の瓶を仕舞いながら夏海を茶化した。

「だから、夏海さんに相談して、頑張れって背中を押してもらいたかったんだべ。きっと。でも、このすっとこどっこいの姉さんは、ちょっとした言い間違いにカチンときてカーッとなってキレちまったと」

笑い混じりの声でそう言う聡を、夏海は「うるさいわね」と一蹴し、グラスの中に残っていた焼酎を一気に煽った。