「彼女のためにパン作りに来たって言って、みんなに冷やかされてたんだよって、夏海さんに話してあげるんだって。でも、いつまでたっても、夏海さんその男の人を連れて来ないし、それに、朝昼晩全部パンでも平気だった人が、全く食べなくなっちゃったし。そのうちカルチャー教室でショックこと聞いちゃって」
「何を聞いたのよ？」
「パンの体験教室に来てた男の人、お仕事辞めて、パン屋で働き始めたらしいって」

秋穂が聞いてしまった言葉を、英吾はできるだけ正確に夏海に伝えようとした。

「彼女のためにパンを作りに来ていたのに、でもそれが原因で、その彼女に愛想尽かされて別れちゃったみたいよって。結構、大きな会社にお勤めしていたのに、あの年でパン屋に転職なんてねえって。そんなこと言いながら先生たち笑ってたって。秋穂ちゃん、それ聞いて、すげーショック受けちゃったんだよね」

ため息をつきながらの英吾のその言葉に、夏海は忌々しそうに荒々しい息を吐きだした。