幼稚園のときに宣言したという英吾を、良太郎は怒り半分呆れ半分で見ていたが、本当に英吾は、その頃から変わることなくずっと、秋穂のことだけを見てきてのだということを改めて思い知った。
秋穂が喜ぶこと、悲しむこと、その何もかもを英吾は見て知っているのだと、その事実に良太郎は気づいた。


すげーな。
英吾。
お前。
すげーよ。


一人の女を、ただ一途に思い続ける男の純情を、いつか物語にして書いてみたいなと、そんなことを頭の片隅でちらりと考えながら、良太郎は英吾を見つめた。

「秋ちゃんが、長谷さんに会ったのはそのときだけだよ」

何度も脱線を繰り返しながら、英吾はまた秋穂の話を始めた。

「秋ちゃんね、夏海さんが長谷さんのことを、家に連れて来てくれるの、楽しみに待ってたんだよ。パン教室で会いましたねって、驚かせてやろうって」

少しだけしんみりとした声で、英吾は夏海の知らない秋穂のことを、夏海に語り続けた。