焼け木杭に火はつくか?

「長谷さんのこともそうだよ。夏海さんのとこでパンを見たときに、パン教室でこれ作った人に会ったよって、そう言えばよかったのにって、オレだって言ったんだよ。だから、夏海さんが何で言ってくれなかったのって言うのも、判るよ、俺。すっごい、判るの」
「はいはい。ありがとう」
「でも、秋ちゃんはそうゆう子なんだよ。それは判って。お姉ちゃん」
「はいはい。判りました。但し、英吾にお姉ちゃんと呼ばれるのは、却下」
「えーっ なんでぇー オレ、そのうち義理の弟になるのにー」

さらりと、夏海をお姉ちゃんと呼んだ英吾を見過ごすことなく、夏海はきっぱりと釘を刺した。

「私をお姉ちゃんと呼んでいいのは秋穂だけ。その特権は秋穂にだけあげたの。だから、英吾であっても許しません」

おそらく、駄々を捏ね続けるだろうと思っていた英吾が、夏海のその言葉にあっさりと「秋ちゃんだけの特権なら仕方ないね」と、顔をくしゃくしゃにして嬉しそうに笑った。
良太郎は初めて見た英吾のそんな一面に、目を開いて感心した。