焼け木杭に火はつくか？

聡の一風変わった家庭環境は、昔から様々な尾びれ背びれがつけられて、あれこれと囁かれていることも少なくなかった。おそらく、そういったものも聡の耳に入っているだろう。
好奇と悪意が入り混じった噂話に、聡が何らかの感情を見せることは、今までなかった。
いつでも変わらず、ただ全てを受け流している。
そんなふうにしか見えなかった。
しかし、十代の聡もまた秋穂と同じように、聞こえてくる無責任な噂話や陰口に傷つき悩んでいたのかもしれない。
そんな聡の胸中を推し量ってやれなかった自分が、良太郎は情けなくなった。

「そう、ね。……ありがと」

短い言葉だったが、それでも夏海の気持ちは十分に聡に伝わったのだろう。

「おお。英吾。オイラ、真夜中にいきなりメニューにない茶碗蒸しなんてもんを注文して、当然みたいな顔でふんぞり返っていた女ボスに、礼を言わせたぜ」
「ははは。ホントだ。すげー、サトルさん」

明るい声で沈んだ空気を払拭した聡に、英吾も楽しげな声で答えた。