焼け木杭に火はつくか?

「だ、誰がそんなことっ」

拳を握り締めいきり立つ夏海を、聡の静かな声が制する。

「夏海さん。怒鳴るのも怒るのもなしだよ。英吾な、秋穂ちゃんからその話聞いたとき、夏海さんに話すべきかどうか迷って、オイラ、相談されたんだ。話したほうがいいかなあって。オイラがやめとけって止めたんだ」
「どうしてっ」

目を剥く夏海に、聡は淡々として口調で答えた。

「そうやって、見境なくして怒るからだよ。言ってたのは親戚の人たちなんだぜ」

聡のその言葉に、夏海は黙り込むしかなかった。
夏海の実母は、夏海が六つになった頃に亡くなった。
もともと、心臓に持病を持った人だった。夏海を出産してからは、床に伏せることが増え、入退院を繰り返す身となった。
育ての親となった今の母親は、その当時、家政婦として、家の中のことを切り盛りしてくれていた人だった。
子どものころから母に代わって、ずっと側に居てくれたその人に、幼い夏海が懐いていたこともあり、実母の一周忌が終ると、父親はその人との再婚を決めた。