「夏海さん。長谷の店、行ってみなよ」

行ってみりゃ、長谷さんの気持ちが判るよ。
そう続いた聡の言葉に、夏海は眉を寄せて訝しげに聡を観た。
聡は、小さく笑って夏海にある事実を告げた。

「長谷さんの店にゃ、夏海さんとこのあの雑誌、全部揃って置いてあるよ」

その言葉に、夏海は驚いたように目を見開き、聡を見た。
聡は笑みを浮かべた顔で、言葉を続ける。

「創刊号から、全部。一冊もかけてねーよ。あの人、ちゃんとさ、別れた後もずっと、夏海さんの仕事ぶり見ていたんだぜ。もう、復讐完了でいいじゃね?」

めでたしめでたしの手打ちにしよーぜ。
聡が訥々と語り続けた言葉を、何も言わず聞いていた夏海は、両手で顔を覆うと肩を震わせた。
何かを堪えるようなその息遣いには、夏海の戸惑いと躊躇いが溶けていた。
やがて、夏海の肩の震えが治まると、良太郎が明るい声で話し出した。