焼け木杭に火はつくか?

長谷を許すことができず、切り捨てるように別れたあの頃。
ようやく、夏海の会社で作っていた雑誌が、その発行部数を伸ばし始めたころだった。
ようやく、ここまできたと喜んだのもつかの間。
設立当時から一緒にやってきた親友が、仕事を覚え始めた社員たち数名を引き抜いて会社を辞めると、すぐに同じような会社を立ち上げたのだ。
取材先も強引に奪われていくことが増え、夏海は苛立っていた。
だから、長谷が勢い任せで口にした些細な言葉を、許せる余裕も、笑い飛ばせる余裕も、それに対して言い訳をさせてあげる余裕も、あのときの夏海はなくしていた。
今の夏海ならば、そんなことを言うのはこの口かと、その頬を抓り笑い許してやっているだろう。
そう、思う。
夏海にも、それは十分に判っていた。
自分の余裕の無さから生まれた、行き場のない苛立ちを、長谷の放った言葉の尻尾を捕まえて、ただ長谷一人を悪者にしてぶつけてしまったのだ。