焼け木杭に火はつくか?

「一生分かってくらいの涙出て、びっくりするほど泣いたんだから。バカ」

その頬に涙はなかったが、夏海はすんと鼻を鳴らす。バカ、バカ、バカと、何度も同じ言葉を繰り返し続けた。

「夏海さん。長谷さん、まだ独身だぜ。一人もんだよ。彼女もいねーってよ」

聡は夏海の前にある空になったグラスを下げると、新しいグラスにビールを注いで夏海に出した。

「だから、なに?」

それを一気の飲み干して、夏海は忌々しそうに聡を睨みつけた。

「夏海さんだって、今ちょうど彼氏いねーべよ」
「余計なお世話よ」

聡にとやかく言われる筋合いあいでしょっ。
とりつく暇も与えぬ口調で言い捨てる夏海など、気にする様子も見せず、聡は喋り続けた。

「言い方を間違えたんだって、謝ったんだぜ」
「だから? それがなんだって言うのよ?」
「三十を過ぎた男がよ、悪かったって謝ったんだぜ。ひでぇ言い方して、夏海さん傷つけたんだろうけどさ。喧嘩両成敗って言うべ。ホントに長谷さんだけが悪者か? オイラ、そうは思えねーけど。長谷さん、いい人だぜ」

聡の言葉に、夏海は忌々しそうに鼻を鳴らした。