「……ベーグル、おいしかったわよ」
長谷を見つめたまま、夏海はそう告げる。
そう言ったものの、夏海の目の前に置かれた皿には、まだベーグルは手付かずで残ったままだった。
長谷の目が不思議そうに夏海を見た。
夏海はくすりと笑って、その種を明かした。
「昨日、西島がどっさり買い込んで、会社に持ってきたのよ。昼ごろ、行ったでしょ。このパンなら、社長のパン嫌い、絶対治るから食べてーって。もう、仕事にならないくらい、騒ぎまくって。大変だったわ」
騒ぐ英吾と怒鳴る夏海の姿が、ぽんっという音と共に脳裏に浮かんだ良太郎と聡は、肩を震わせ笑いあった。
英吾のことだ。他の社員まで巻き込んでの騒ぎにしたに違いない。
良太郎はそんなことを考えた。
「あれからね、私、パンが嫌いになって。仕事先で出されたり、余所様のお宅で出されたら、喜んだふりして食べてたけど、本当においしいって思って食べることなんて、なくなっちゃったの」
長谷と別れてからのことを、夏海は静かな声で語った。
長谷を見つめたまま、夏海はそう告げる。
そう言ったものの、夏海の目の前に置かれた皿には、まだベーグルは手付かずで残ったままだった。
長谷の目が不思議そうに夏海を見た。
夏海はくすりと笑って、その種を明かした。
「昨日、西島がどっさり買い込んで、会社に持ってきたのよ。昼ごろ、行ったでしょ。このパンなら、社長のパン嫌い、絶対治るから食べてーって。もう、仕事にならないくらい、騒ぎまくって。大変だったわ」
騒ぐ英吾と怒鳴る夏海の姿が、ぽんっという音と共に脳裏に浮かんだ良太郎と聡は、肩を震わせ笑いあった。
英吾のことだ。他の社員まで巻き込んでの騒ぎにしたに違いない。
良太郎はそんなことを考えた。
「あれからね、私、パンが嫌いになって。仕事先で出されたり、余所様のお宅で出されたら、喜んだふりして食べてたけど、本当においしいって思って食べることなんて、なくなっちゃったの」
長谷と別れてからのことを、夏海は静かな声で語った。


