焼け木杭に火はつくか?

「そうそう。ウチの母上、ベーグル屋さんの大ファンだからね。追い出すようなことしたら、夏海さんと言えども勘弁しないと思うな」

わざとらしいほど陽気な声で、良太郎が夏海の言葉に頷いた。

「今、ベーグル屋さんいなくなったら、英吾の記事もボツだべ。騒いで喚いて、会社で大暴れすんぞ、アレ」

夏海さん、会社にもしばらく顔だせねーよ。
聡は楽しそうに笑いながらそう言った。

「もうっ 人がちょっと目を離した隙に、私の王国に侵入して、味方をこんなにごっそり作って。この卑怯者メ」

顔を上げた夏海は、自分を見下ろす長谷を頬を膨らませて睨みつける。それでも、もうその目には、良太郎が店に来たときに宿っていた、氷のような冷たさはなかった。

「私の王国って、この姉ちゃん、何様なんだよ。団地の主か? 王様か?」
「俺らは下僕? それとも家来? もしかして奴隷とか?」

夏海の言葉に、聡と良太郎は恐れ入ったと言わんばかりの声でそんなことを茶化すように言い合い、それでも互いに合わせたその目には、笑いの色が浮かんでい。