焼け木杭に火はつくか？

「今なら、ごめんを聞いてもらえるかなって。許しては貰えなくても、頑張ったことは認めてもらえるかなって。夏海に会いたかった」

会いたくて、ここに来たんだ。
静かに続いたその言葉に「バカ」と夏海は小さな声で呟いた。
そんな夏海に長谷は静かに問いかけた。

「俺がここにいるのは、嫌か？　なら、出て行くよ」

夏海を見下ろすようにして話し続けた長谷は最後の言葉に、夏海の肩がびくりと揺れた。
聡も良太郎も口を閉ざしたまま、夏海の言葉を待った。
夏海が、すうっと一つ大きく息を吸う。

「今更、そんなこと聞かないでよ」

バカ。
思いがけず明るい声で夏海はそう長谷に答えた。

「この団地の人に、ベーグル屋さんは大人気なのよ。良太郎だって、母が喜んでるって言ったでしょ。そのベーグル屋さんを追い出したら、私もここに戻れなくなるじゃない」

夏海の言葉にその通りと、聡と良太郎は笑いながら頷いた。