焼け木杭に火はつくか？

「夏海とここにきたときに、実家の蔵みたいだなって思いながら、あの蔵を見ていた。どうしてか、あの蔵のことが頭に浮かんで、消えなくなった。あの蔵なら、あの蔵がある場所なら、故郷を無くして根なし草みたいになってしまった俺でも、根っこ生やして暮らしていけるような、そんな気がして」

ここに来たくなったんだ。
淡々と続く長谷の言葉を聞きながら、夏海の脳裏にもあの日の記憶が鮮明に蘇った。
実家の蔵に似ていると言った長谷は、今度俺の実家にも一緒に行ってみないかとそう夏海に言った。
その言葉が嬉しくて、これから訪れる二人の未来を気恥ずかしくなりながらも想像して、胸を弾ませていた。
甘酸っぱい追憶に、夏海の目がわずかに潤んだ。
そんな夏海に長谷は一瞬の躊躇を見せてから、意を決したような顔で言葉の続きを夏海に告げた。

「それに、ここにいれば、また夏海に会えるかもしれないって、そんな気持ちもあった」

告白のようなその言葉に、聞いた夏海よりも言った長谷が、少しばかり照れくさそうな笑みを浮かべた。
けれど、その笑みはすぐに消え、真面目な顔つきになった。