焼け木杭に火はつくか?

「前に来たとき……小野さんに見られたときだな。あの蔵の前歩いたろ。田舎にあった蔵、思い出したんだ」

懐かしさが込められた声で、長谷は訥々と語り続けた。

「俺が生まれた場所は、ホントに山奥の小さな村で」

一度連れて行ったから知ってるだろ?
尋ねたようなその言葉に、夏海は小さく頷いた。

「俺もそうだけど、若いやつは中学卒業するとほとんどが町に出で、そのまま村には戻らなくなっちまう、年寄りばかりの過疎の村だ」

訥々と続く長谷の言葉が、静かな店内に淡々と流れた。

「一昨年、お袋が死んで、すぐに親父も死んで、村にはもう身内がいない。家を残しておいてもしょうがないんで、処分した。そしたら、帰る場所も無くしちまった」

どこに自分の根っこがあるのか判らなくなった。
そう言って長谷は目を伏せる。頬には寂しげな笑みが浮かんでいた。

「そろそろ独立して、自分の店をもとうって考え始めたら、なんか、あの蔵のこと思い出した」

長谷は、何かを懐かしむような遠い目をして、空を見つめていた。