夏海が自分たちのことを聡に話したとばかり思いこんでいた長谷は、夏海からのその答えを聞いて、またその視線をカウンターの中にいる聡に向けた。

「へえ、……小野さん、誰から聞いたの? 俺たちのこと」

長谷は興味深げに聡を見て、そう問いかけた。
一体、どこの誰が昔の自分たちのことを知っていたのか、それを知りたいと、その目は言っていた。
しかし、聡はその期待に反して、長谷に向かって肩をすくめて見せると、誰からも聞いていないと答えた。

「聞いてない?」

眉を潜める長谷に、聡は大きく頷き、言葉を続けた。

「別に、誰からも聞いてないですよ」

同じ言葉を繰り返し、それだけ告げるとまた押し黙ってしまった聡に、夏海の苛立ちを嗅ぎ取った良太郎は、苦笑しつつ口を開いた。

「サトルくん。もう少し説明して」

良太郎の最速に言葉が足りなかったかと気づいたらしい聡は、やや考え込むような顔をして、やがてゆるゆると喋り出した。