夏海は少しばかりバツの悪そうな顔をしながらも、うるさいわよというように、ふんと鼻を鳴らし、長谷はただ呆気にとられた顔で聡を見ていた。
良太郎はそんな聡に、肩を揺らして小さな笑いを零した。

「大体、なんで聡なんかに私のこと、話してんのよ？」

聡を責めてもしょうがないと悟ったように、長谷を見ようともせず、夏海はやや拗ねたような声で、そんなことを言い出した。

「俺は何も言ってないよ。夏海が話したんじゃないのか？」

それは自分に向けられた言葉だと理解した長谷は、それでも夏海を見ることなく正面を見据えたまま、どことなく楽しげな声で夏海に答えた。
夏海と言ったときだけ、その声が少しだけ緊張していた。

「長谷が、ここで店を始めたなんて。私は一昨日まで知らなかったわよ。西島が書いた紹介記事見て、驚いたんだから。この子たちの前で長谷の名前を出したことだって一度もないわよ」

最初に長谷の名を口にしたときの夏海の声にも、幾ばくかの緊張があったが、最後はいつもと変わらぬ落ち着いた声になった。