「座るなり、夏海さんの頭にゃ角がにょきにょき生えてくるし、長谷さんの顔はだんまり決め込んだ能面だし。何も知らなきゃ気にしませんけど、なんとなく、オイラは事情を知ってますもん。気まずいやら、緊張するやらの店ん中でよ、オイラこそ、それこそ、どーすりゃいいんだって話でしょーが」

いつになく口の回転がいい聡に、長谷の目が驚いたように丸くなっていく。
聡を子どものころから見ている夏海ですら、めったに見ることのないよく喋る聡に、やや驚きの表情を浮かべていた。
こうなると、聡の口は止まらない。
口から先に生まれてきた子どものように喋り続ける。

「オイラ、これでも、この店の店主ですもん。我慢比べみたいに押し黙ったまま、意地の張り合いして、カウンターの両端に座り続けて、店の雰囲気どろどろに悪くしてるからって、それでも、それだけのことで、お客に帰れとは言えねーし。オイラこそ、被害者じゃね?」

どうだ。間違っちゃいねーべ。
饒舌モードのスイッチが入った聡のそんな開き直りにも似た訴えに、誰も反論できなかった。