けれど、次期候補確実という立場をいとも簡単に放棄し

人間の街で暮らしている悠兎さんを、どうしても理解できなくて

当時、次期当主候補だった父は、もう一度戻って来て欲しくて

話をしに行ったらしい。



「悠兎、頼む。帰って来て、君が王になってくれ。
 君は人望もあるし、統率力もある。俺なんかよりずっと王に向いているじゃないか。
 それに、君には後継ぎがいる。俺には、優月しかいない。
 だから――――」

必死に頼み込む父。

「ゴメン。僕は、人間が好きなんだ。
 ヴァンパイア界より、こっちの世界が好きなんだよ。」

申し訳なさそうに謝る悠兎。


「なにを言っても、それは変わらないのか?」

実際、何度か説得に来ていたが返事は変わらなかった。


「そうか―――――あ、悠兎。気をつけろよ。ある一族が動いている。」

「あぁ、分かっている。」

悠兎さんの返事を聞いた父は、そのまま屋敷を出た。


「悪いな、颯馬。」

その声は、父には届かなかった。