しばらくすると、彼女が戻ってきた。
変わった様子は特に無い。
ついでに何がしたかったのかも分からない。
「ごめん、お待たせ」
「いえいえ」
「何してたの?」
「秘密」
「……」
「じゃあ、行こうか」
そして、再び職員室へと向かう。
何だろう、この取り残された感じ。
先陣を切って歩く紘子の背中を見ながら、私はこっそり涼に尋ねた。
「あのさ、さっき紘子と目配せしてたじゃん」
「してたね」
「あれ、どういう意味?」
「うーん……俺にも分からない」
何だ。
ちょっと安心した。
「知らなくてもいいことだってあるの」
わざわざ後ろを向いて言わなくてもいいよ。


