「あのさ、教室戻ってもいい?」
職員室のドアを叩こうとした瞬間、紘子が待ったを掛ける。
涼は彼女の方を向き、不思議そうな顔をした。
「忘れ物とかしたの?」
「まぁ、そんなものかな」
「ふーん……」
と言うことで、私達は一旦教室へ戻った。
教室へ入ろうとすると、紘子がくるりとこちらを向いた。
「ちょっとここで待ってて」
「え?何で?」
「いいから。覗くなよ」
そんな鶴の恩返しみたいなことを言われても。
そう言われると、余計に覗きたくなるのが人間の心理である。
「特に恵美。すぐ戻ってくるから、動かないで」
何故念を押されるのだ。
解せぬ。
紘子は涼と目配せすると、教室へ入っていた。
解せぬ。


