「調理室はA館の八階ですよ。何で三年もいて覚えてないんですか」
「度忘れして、つい……それに、待ち伏せって何?」
「……」
ここへ来て、廉が口を閉じた。
彼はじっと私を見たまま、口をへの字に曲げている。
何かまずいことでも訊いたのか。
多少なり、そんな思いが浮き上がってくる。
やがて、廉はおもむろに口を開き、
「恵美先輩には関係ありません」
それだけを言って、私に背を向けた。
そして、階段の方へ歩いていった。
「……」
廉を止めようと伸ばした右手を見つめ、溜め息をつく。
『恵美先輩には関係ありません』
棘のある言葉が突き刺さる。
頭の中で彼の声が響き、心が小さく疼いた。


