父親は誰かと聞けば、首を振るばかり。
言いたくないって。
そこで、僕の方に話が回ってきたんだ。
仲がいいって程でもないけど、南波先生や北村先生とはよく話してたりしたからね。
正直、こんなことが起きてるなんて信じたくなかった。
やっぱり、人間夢中になると前が見えなくなるってことが分かった。
僕は彼女を呼び出し、父親は誰かと訊いた。
そこでも松葉さんは首を振ったんだ。
そして、ポロポロと涙を流した。
言いたくないのかと訊いたら、彼女首を振って小さく答えた。
「知らない」ってね。
どうやら彼女、襲われたらしいんだ。
絶句する僕の前で、彼女は「誰にも言わないで」って言っていた。
そして、最後に
「助けて」
とも言っていた。


