『いや、ほら、先生に用事があったんですけど、見当たらなくて』
『……』
意味深な沈黙。
ボイスレコーダーの中からガヤガヤした声が聞こえる。
『こないだは学校にいたよ。ちょっとした雑務をこなしてたんだ』
『そうですか……じゃあ、田中先生についてどう思います?』
『……』
「……」
最早、誰も何も言わない。
誘導尋問が下手な人はいるが、ここまで出来ない人はレアだと思う。
『田中先生?どうしてそんなこと?』
『俺、田中先生の授業サボっちゃって。それで、謝りたいんですけど、どうしたらいいのか分からなくて……』
何故それを体育の先生に使うのだ。
体育と数学なんて、絶対に交わることのないねじれの位置なのに。


