「國本さん、ちょっと・・・」
ドアの影で、医者が
珠夢を手招きした。
「あ、はい・・・!
斗真、ゆっくりしてていいからね」
そう言って部屋を出ていった。
ちょっと待てよ。
ゆっくりしていけるハズねーじゃん
「・・・颯葵、」
ベッドの横の丸椅子に腰掛けた。
ギシッと軋むこの音は
昔、よく聞いた音だ。
いい思い出は、何もない音
「颯葵・・・
お前本当に何も覚えてねーのか?」
いつもと変わらない瞳で
俺を見上げている。
でも、いつもと違うんだ。
颯葵の瞳には、
俺という存在が映らない
何もかもを見通すように
ただただ澄んだ色をしてる
