「あっ・・・」
どうしてお姉ちゃんがこんな目に合ったのだろう。
いや、まずなんで自分たちは拘束されているのだろう。
ここは一体どこなのだろうか。
いや、その前にこんなこと誰が・・・。
「ゆな、落ち着いて」
姉の真剣な声に一気に私はぐるぐる回っていた頭を現実へと戻せた。
「だ、大丈夫」
「本当ね?とにかく、今はパニックに陥らないことが先決よ」
いつもどおりの強い声に私は支えられた。
春子お姉ちゃんはいつだって強い。
六歳離れている私はいつだって姉に色々なことを学んできた。
それは勉強だったり、
人間関係だったり、
社会で生き抜く知恵だったり、
とにかく生きていく上で大事なことを姉から吸収してきたのだ。
「私たち、誘拐されたの。それは覚えている?」
「あ、そうえば確か・・・」
思い出した。
どうして忘れることができたのか、不思議になるほど鮮明な記憶。
そう、あの時私たちは普通に地元の商店街を歩いていたのだ。
それなのにいきなり黒服の集団に車に押し込められた。
薬品の匂いがする布を口元に押し付けられたのが最後の記憶だ。
「なんで誘拐なんて」
「・・・さあね。身代金目的かしら」
姉の答えはどこか投げやりだった。
この時はたいして私はその態度に疑問を思わなかったのだ。
「っ、外れない」
身動きを封じている鎖を取ろうと私は身をよじった。
しかし、太く複雑に巻かれた鎖は外れない。
「やめなさい。さっき私も試みたんだけど、無理だったわ」
「いつから起きてたの?」
「そうね、多分一二時間前かな。暴れてたら、奴らにバレてお仕置きされちゃった」
奴らとは私たちをさらった黒服の男たちのことだろう。
そしてお仕置きとは、きっと今の姉に残ったひどい乱暴の跡のことに違いない。
ふふっと笑顔で言う姉だが、その顔は衰弱している。
早くなんとかしなくちゃいけない。
「私、なんとかするからっ。お姉ちゃんを助けるからっ」
なにか近くに鎖を断ち切れる物は落ちていないか。
そう辺りを見回した時だった。
カチャカチャという鍵を開ける音がドアの外から聞こえた。
「っ」
