真白さんの魔法


「なら、二人とも此方に来てください!」

「真白、すまない。それは無理だ」

「私達が残されたほんの少しの魔法は空気だけ。もし動けば私達は直ぐに死んでしまうわ」

「なっ……! そんなっ、誰がやったのですかっ! そんな事を……っ!」


敵は学校ではなく、俺の両親を狙っていたのか?

二人がなにをしたって言うんだ!

もどかしさに一歩足を踏み出そうとすると、


「やめなさい! 真白、もう逃げるのです! 私達はどちらにせよもう死ぬ運命なのですから。貴方だけは生きて!」

「そうだ。真白……。例え敵が誰を恨んでいようと、決して殺してはならんぞ。最後の約束だ」

「父さん! 母さんっ……!」


無くしたくないと手を伸ばしても、母が頑なに許さず。

父はただ黙って俺を見ていた。

まるで俺の姿を目に焼き付けるように。


「殺すなと言われても、貴方方は今その敵に殺されようとしているのですよっ!? なのになぜっ……、恨んではいけないのですかっ!?」


俺は叫んだ、掠れる声で。

勝手に火をつけ、俺の両親を殺そうとしているのに。

恨むなと言う方が難しい。


「憎しみは何も生まない。それに……お前の魔法はそんな事の為にあるのではないだろう?」

「とう……さん」

「お前は骨まで優しい子だ。恨みに使うより、人を幸せにする魔法を使いつづけるんだ」

「貴方は真っ直ぐで人々を明るくさせる。暗闇を照す白い光なのですよ。貴方が照らさないで誰が照すのです」

「母さん……っ!」


父と母が初めて自分の魔法を認めてくれた。

嬉しい筈なのに、涙が止まらなかった。

すると、火に耐えられなくなった校舎が崩れ落ちる。

俺はなんとか食い止めようとした。

けど、本当に魔法が効かないのか、落ちてくる破片は勢いを増して行く。


「父さん! 母さんっ!」

二人を見ると、互いに寄り添って穏やかな表情で俺を見ていた。

そして、


「……」


唇が音を発して居たのに俺は聞き取れなかった。