歯を食いしばる。
…けど、
肝心の衝撃は、いつまでたっても私の体に伝わらなかった。
「あ、あれ…?」
体に伝わったのは予想に反する、抱きしめられているような温かさ。
「大丈夫か?」
頭の上からは、男の人の声がする。
わ…!
受け止めてもらっちゃったんだ…!!
あわててその男の人から体を離し、頭を下げる。
「す、すいません!」
「いえいえ」
その男の人は、真っ赤になって頭をさげる私の髪をくしゃくしゃと撫で、優しく言ってくれた。
「痛いとこないか?」
まるで、妹に対するような優しい声音に、私の肩の力が一気に抜けるのがわかった。
俯いていた顔を上げ、私はまっすぐとその人を見る。
長身の、すごくかっこいい人だった。
「うん。支えてくれてありがとう」
にっこりと笑い、お礼を言うと
その人も、優しい笑顔を返してくれた。
「そうか。 ケガしなくてよかった」
…感動するほど優しい人だ…
こんなお兄ちゃんが欲しかった…。
お兄ちゃんが2人いる私だけど、こんな出来のいいステキな兄は残念ながらいなかった。
「俺、魁桐侑宇。 よろしくな」
そのステキなお兄ちゃん(みたいな人)…魁桐くんは、手を差し出して自己紹介をしてくれた。
「美風亜生、です。 よろしく、魁桐くん。」
その手を握り返し、私も自己紹介。
「亜生、な。 俺のことは侑宇でいいよ。」
侑宇は、私の名前を確かめるように呼び、そう言った。
「なんかあったら頼ってくれな。」
…なんと頼もしい…!
私は、これから何かあったら実の兄でなく、侑宇に頼ろうと決めた。


