「…亜生? どうした?」
「…っへ?」
「なんか、泣きそうな顔してる」
気づくと、侑宇が私を心配そうな顔で覗き込んでいた。
あの人のことを考えてたら、いつの間にか泣きそうになったみたい。
「…ううん。 なんでもない」
心配そうに私を見る侑宇に笑いかける。
でも。
強がってみたけど、侑宇にはお見通しみたいだった。
「あいつのことだろ? …優しいな、亜生」
苦笑して、頭を撫でられる。
「あいつ、杜神刹那って言うんだ」
侑宇が言う。
「侑宇、知ってるの?」
突然聞かされたあの人の名前に、思わず聞き返すと、
侑宇はさっきと変わらない苦笑いを浮かべた。
「同じ中学で、ちょっとだけ、な」
それから侑宇は、杜神くんについて、少し話を聞かせてくれた。
「昔からいろいろと勘違いされやすい奴でな。まあ、悪い奴じゃないんだ。 でも、そうやってあらぬ噂を流されて、勝手に遠巻きにされて… ちょっと人間不信なんだよな…」
「そうなんだ…」
やっぱり、悪い人じゃないんだ。
そういうの、わからなくもないなぁ…。
あることないこと勝手に噂されて、苦しくないわけがないもん。
そして私は、思い立った。
「…杜神くん、追いかけてくる!」
話をしたいと思った。
傷ついてるんじゃないかな。
寂しいんじゃないかな。
悔しいんじゃないかな。
私が行って何ができるかなんてわからないけど
なにもできないかもしれないけど
とにかく、話がしたいと思った。
私は強く思い、杜神くんのおかげでほとんど人がいなくなった講堂を、全速力で駆け抜けた。


