『私は、両親が居なくても、大丈夫。今は、もう。大丈夫。二人のお人形にはなりたくないの。お願い、わかって?』

力の抜けた洸兄の腕から抜け出す。
修兄の手から、拳銃を貰い、地面に捨てた。

カシャン、と高い音がした。


『大好きだったの、皆の事。大事だった。自分の名前と同じくらい。』
「jy・・・瑠奈。」
「?!おい、洸!!」
「瑠奈、ごめん・・・俺・・・。」
『洸兄、修兄・・・。私・・・私ね、外に出た時、思ったの。空を飛びたいって。』


広大な、青い空を見上げると、いつも必ず現れる、白い大きな翼を広げて飛ぶ名前も知らない鳥。
『私も、空を飛びたい。鳥のように、天使のように。空を飛んで、いつか、いつか、消えたいって願っていたの。鉄格子の間から手を伸ばして、つかみたかった。』


掴めないと知ったとき、所無さげに空を切ったあの時の悲しさが、むなしさが、ずっと残っている。
昔、本で読んだ童話。

小さな女の子が、雲に乗って星々とめぐり合う。最後には、天使になって宇宙の彼方に消えていく。
そんなお話。
天に召されて、鳥に導かれて、そしたら私はドコに向かうのだろう。



行き先なんて、無くていい。
私は旅に出たい。
そして、いつか空を飛べる方法を見つけるんだ。




『・・・私の、夢。』
「瑠奈の・・・?」
『うん。囚われていた間、ずっと考えないようにしてきた未来の夢をこの何日間で考えてみたの。これからしたいこと。私は、旅に出て世界を知りたい!!』
キラキラした瞳で、夢を語る小さな子供を思い出した。
あの時は、私に何故あんな綺麗な瞳が無いのか判らなかったけれど、きっと今の私は持っているから。


「ジュリアの、瑠奈の夢を聞くのは・・・初めてだな。」
修兄が自嘲するように笑った。
「兄貴・・・。」
「俺だって、瑠奈が大切だった。瑠奈が宝で、瑠奈が全てだった・・・。瑠奈の悲しい顔を二度と見たくなかった。・・・全部、瑠奈のためになるって・・・。」
『修、兄・・・。』
「俺の夢は、瑠奈が幸せになる事だったんだよ。」
私の髪を優しく梳く、修兄の大きな手、指。
昔から、私の髪を梳くのは修兄の役目だった。
「瑠奈の髪、こんなに柔らかかったっけ・・・?」

思い出すように、笑うのは、どうして?



―瑠奈の髪、凄く柔らかいよ。
―ほんとう?でもね、るなね、しゅうにぃとこうにぃのかみがすき!!