重厚な扉が開く音が、やけに大きく聞こえる。


「起きていたのか、ジュリア。」
低くそれでいて掠れた声がボクに向かって吐き出された。

『お帰りなさい、マスター。』
虚ろな瞳をマスターに向ければ、ぼやけた視界に映るのは冷酷に笑う醜い男の顔。



「お前は、逃げられないのだ。」
初めてここに連れてこられた時、言われた言葉。
最初は何かの冗談だと信じていた。

-エイプリルフールなんだ、今日は。 だから両親は私と引き換えに札束を抱えていったんだ。
全部、手の込んだ嘘なんだ。
両親は、私を大切にしてくれていたから。

信じて疑わなかった、純粋無垢な少女はもう居ない。



あの純白で美しかった少女は両親に売られた次の日に死んだ。
変わりに、ボクが生まれた。


疑う事を知らなかった彼女の変わりに、疑う事しか知らないボクが。