「先輩!こっち!」

七瀬くんの後に体育館に入ると、何というか、男臭い。

それに、ギャラリーには結構女子が溜まっている。

「ギャラリーだと見えにくいから、ステージの上とかで座って見ててくださいね!」

「え、」

ステージの上って、なかなか目立つんじゃ…そう言おうとする前に、七瀬くんは着替えに行ってしまった。

仕方がないので、私はステージのカーテンに少し隠れながらバスケ部を見る。

ギャラリーの女子達に見つかったらまた面倒くさいことになりそうだし。

暫くボーッとバスケ部の練習を眺めていると着替え終わった七瀬くんが練習に加わった。

「せんぱーい!!ちゃんと見ててくださいねー!!」

大きな声で叫ぶ七瀬くんにカーテンから少し顔を出し、首を縦に振る。
頼むから大きな声で呼ばないでほしい、ギャラリーの女子達にバレる…。

幸い、ギャラリーの女子達はキャーと奇声を上げながら「私に言ってくれたのよ!」なんて言っている。

バレてない、良かった。







暫くバスケ部の練習風景を眺めていたが、なかなか面白い。

そして、バスケをする七瀬くんは素直にかっこいいと思う。

ゴールを決めた後なんて、特にかっこいい。

沙有里ちゃんから教えてもらった「バスケ部のイケメンエース」なんて言葉が正にピッタリだ。

ふと、時計を見ると18時を指していた。

3年生の部長らしき人が「片付けすっぞー!」と声を掛けている。

ギャラリーに居たはずの女子達も気づけばみんな帰っていたようだ。
最後まで見てる人ってあんまりいないのか。

私も帰ろうとステージから降りると七瀬くんが走ってきた。

「なかなか楽しかったよ」

そう伝えれば七瀬くんはにこにこしながら「まだ帰っちゃダメですよ!」と言ってきた。

「いや、後片付けだけじゃん。私帰るよ」

「もうちょっと待っててください!」

何が楽しくて片付けまで見ていなきゃいけないんだ、帰りたい。
そう言って七瀬くんを見ると、少し顔が赤い。

「七瀬くん?」

「俺、あれやってみたいんです!」

あれ?ってなんだ?

「『彼女を家まで送り届ける彼氏』!!!」

…なに言ってんだこいつ、そもそも彼氏じゃないだろお前。

それにまだ6月、外もそこまで暗くはない。

「あの、七瀬くん、キミ、彼氏じゃないよね?」

正論を言えば「そ、そうっスけど…」と少し吃る。

「でも!!先輩の家、行って見たい!!!」

「あ、」と本音が出てしまった口を押さえているが、本音が出てしまった今、まるで意味がない。

「サヨウナラ」

「あ!先輩待って!!!」

私の行く手を必死に阻もうとする七瀬くんの後ろからバスケ部の部長が七瀬くんの頭にチョップをかました。