「捕獲〜!」

「…七瀬くん」

あと一歩の所で…ちくしょう。

「先輩ってば!待っててって言ったのに!!」

「誰も待つなんて言ってないよ…それにしても、よく追いついたね」

3年と2年の教室って結構距離があると思うんだが。

「なんてったって、今をときめくバスケ部のエースですからね!」

笑顔で更にぎゅうぎゅう抱きしめてくる七瀬くんがそろそろうっとおしい。

「昼休みにも言ったけど、TPOを考えて行動しようね、離れて」

そう言えばサッと手を引いてくれたけど、「今ここ誰も居ませんでしたよ!」なんて不満をぶー垂れている。

「もうすぐ下校する人がわらわら来るよ」

私が猛ダッシュで下駄箱まで向かったから誰も居なかったわけで、暫くすれば沢山の生徒たちが来る。

七瀬くんに抱きしめられているところなんて見られたら、私は明日七瀬くんのファンに殺されるかもしれない。

「先輩、これから暇ですか?」

「暇じゃない」

「バスケ部見に来てください!」

おい、会話が噛み合ってないぞ。

「暇じゃないって」

「iPodで音楽聴きながら家まで帰って昨日の夜残しておいた食べかけのアイス食べるんですよね?十分暇じゃないですか!」

「!?」

なぜ私の生活リズムを知っているんだこの男…びっくりして声が出なかった。

「友原先輩が言ってました!」

おのれ沙有里ちゃん、許さん。

「私にとっては大事な時間なの!暇じゃないの!」

そうは言ってみたが、我ながらとても説得力がない。

「バスケ部見るの、結構楽しいと思いますよ」

「だから、ね!」と言って、七瀬くんは私の腕を引っ張ってくる。

「わかったから、腕、離そう」

人目が気になるから七瀬くんに腕を離してもらって、七瀬くんの後について行く。

七瀬くんの背中がなんだか嬉しそうで、犬だったら尻尾をブンブン振ってるんだろうなぁ、なんて思ってしまった。

ダメだ、私、七瀬くんのこと完全に犬だと思ってしまっている。