「いっ…!てぇ!!」

「七瀬!!遊んでないでお前も片付けろ!!!」

まったくその通りだ、後輩なんだからちゃんと働け。

私が2人のやりとりを見ていると、部長さんが話しかけてきた。

「二ノ宮…だよな?七瀬が迷惑かけてるみたいで、悪いな!」

「いやいや、部長さんのせいではないです…」

部長さんは私の存在を知っていたようだが、私はこの部長さんの名前を知らない。クラス違うし。

「部長!なんで先輩のこと知ってるんスか?!!」

「学年が一緒だし、美人だって結構有名だからな」

「た、たしかに美人っスけど…」

「ごめんなさい、私、部長さんの名前分からないです…」

「あぁ、笹岡達成、よろしく!」

笑顔で名前を教えてくれた、良い人だ。

「二ノ宮愁です、よろしく」

一応こちらも自己紹介と、よろしくをしておく。

その様子を見ていた七瀬くんは面白くなさそうに「よろしくしなくてもいいんですよー」なんて言っている。

「笹岡部長!いやらしい目で先輩のこと見ないでください!!」

「見てねぇよ!!」

「先輩も!部長なんかと仲良くしなくていいですからね!」

適当に返事をして受け流しておく。

「いいから片付け手伝えバカ!」と言われながら笹岡くんに首根っこを掴まれて七瀬くんは引っ張られて行く。

「ちょ…苦し…!あ!先輩!終わるまで、待っててください…ね!送るんで…!!!」

笹岡くんに引っ張られて、苦しそうに私を見る七瀬くん。

仕方ない…待っててやるか。

私はなんだかんだこの犬に甘い。

ペットぐらいならいいかな…なんて思ってるあたり、この短時間で、七瀬くんに毒されてきている。







部活が終わり、2人で電車に乗る。

電車はサラリーマンや学生たちの帰宅ラッシュで混み合っている。

「先輩、こっち」

七瀬くんは窓際の空いたスペースに私を入れてくれる。
こういう仕草に女の子はキュンとするんだろうか。

七瀬くんの話を適当に聞きながら電車に揺られ、駅から歩いて私の家まで送ってくれた。

「へー!ここが先輩の家!」

「送ってくれてありがとうね」

「今度ちゃんとご両親に挨拶にきますね!」

なんの挨拶だよ、とツッコミを入れると、「わかってるくせにぃ!」と言いながら肘で突っついてきた。

「ペットですって、挨拶に来るの?」

「…え?ペットにしてくれるんですか?」

しまった、と思って今度は私が口を押さえるが意味がない。

七瀬くんは忽ち満面の笑み。

「やばい!先輩!どうしよう!嬉しい!」

喜ばせるつもりなんてなかったのに。

「ペットと彼氏は違うからね、そこらへん勘違いしないように…」

「あー!もう幸せ!!!」

こいつ…話聞いてない…。

「先輩!明日の朝!迎えにきますね!!」

「来るな」という言葉を飲み込んで、「気をつけて帰りなよ」と言うと、それはそれは嬉しそうに、七瀬くんは「ワン!!!」と鳴いた。

…近所迷惑。