戸井田はチャイムの音を聞いていた。ロッカーから『肺世』が見えなくなる瞬間に時間を止めた。

　時間は止まった。

　戸井田は校舎に向かった。

　すると、『肺世』はすでにロッカーの周囲にはいなかった。

　戸井田はロッカーの『肺世』の名をさがした。

「あった」

　変わった名字なのですぐに見つかった。

　ロッカーの真ん中で一年Ｃ組に『肺世千紗』と書いてあった。

「千紗か……」

　これで名前と学年までわかった。

　戸井田は千紗の顔を見ると、時間が止められなくなる可能性があったので、一旦校舎を出た。

　時間を動かした。

　戸井田は腕時計を見ながら時間の経過を見守った。

　千紗のもっと詳しい情報がほしかった。とは言っても住所などの個人情報など簡単にわかるはずもなかった。

　銀行のときとは違って、無計画だ。これも寝坊のせいだ。

　けれども寝坊したお陰で、今日は千紗と出会えたのだ。