マンションのようだ。しかし、生活感がない。洗濯物もパラボラアンテナもない。

「こっちよ」

 と、彼女は三階のベランダから手を振っていた。

 戸井田は入り口をさがした。一階部分は壁でできていて、入り口のドアはなかった。

「どこから入るんだよ!」

 戸井田は叫んでみるが、彼女はいつのまにかいない。

 それどころか戸井田はマンションのベランダにいた。推定五、六階だろう。

「ここよ」

 と、彼女は地上にいた。

 戸井田は振り返り、室内に入った。

 真っ暗だった。

 戸井田は目を開けた。

 夢から現実に返り、時計を見た。午後一時になっていた。身体は汗まみれだった。九月初旬はまだ、残暑で空気も暑かったのだ。

 戸井田はタバコをくわえ、火を点けた。

 まだ、頭の中はボッとしていた。でも夢と現実の区別はついた。今は現実だ。だからまぶたが重い。