田久万は千紗が男の人の名を呼んで、『戸井田』と言うことがわかった。

 戸井田は千紗の呼びかけを無視するかのように背を向けて走っていた。

 それもヘリコプターの墜落していく方にである。

「あっ!」

 時間が動き出した。

 ヘリコプターはゆっくりと墜落して行く。

 田久万は気が動転していた。どこまでが安全な場所かわからなかったので、小学生を最後の力で引っ張った。

 それに千紗も応援するように、一緒に引っ張りだした。

 ヘリコプターは墜落した。

 ものすごい轟音だった。

 田久万は耳の鼓膜が壊れるのではないかと思うほどすさまじかった。

 ほとんど誰も救えなかった。

 悔しさと悲しさと無力感しかなかった。

 戸井田がどうなった見る余裕も体力も残ってなかった。

 あまりの体力の消耗で、田久万は意識を失った。