田久万も椅子から立ち上がった。

 慶子の後を追うためである。

 時間を止める活用法が思い浮かんだのだ。

 慶子と玲は話しながら廊下を歩いているので、田久万に尾行されているなど考えもしない。

 田久万は慶子と玲がトイレに行くと予想した。二人は話しに夢中だった。当然、トイレの前で足を止めると思ったが通り過ごした。

「おーい!」

 田久万は慶子に向けて発した。

 もちろん慶子は止まるはずもなく、廊下をどんどんと突き進んで行く。

 周囲には他の生徒もいるので、田久万の声は、かき消されたのだ。

「島目さん!」

 と、田久万は前よりも大きな声で言った。

 慶子の足が止まった。と、同時に田久万は心の中で時間を止まれと念じた。

 森閑としている。

 まさしく、時間が止まったのだ。と、田久万は確信した。

 慶子と玲は横に並んでいた。