「一緒じゃなかったんですね」

「一緒に住んでないですから……」

「そうですか……今はまだ学生さんですか?」

「いえ、働いています」

 戸井田は義母に本当のことを言っても無駄だと思ったのでウソをついた。

「そうでしたか……」

 義母もそれ以上に詳しいことは聞いてこなかった。

「遅いですね」

 戸井田は義母と話すのが苦痛だった。

「そうですね……」

 戸井田はタバコに火をつけた。口から煙を吐いて、やっと落ちついた気がした。

 店内はジャズの曲が流れていることにも気がついた。

 戸井田は下を向いていた。義母と目を合わさないためである。

 時間は刻一刻と過ぎていた。

 遅い。

 戸井田は時計を見ると、五時四十五分になっていた。